着岸時に桟橋へ擦った、荷物を落として傷がついた、船底に細かいひびが増えてきた——FRP船を持っていれば、傷は必ず発生します。
FRP(繊維強化プラスチック)の利点は、傷や割れを自分で直せることにあります。金属船のように溶接設備は必要なく、材料も市販されています。
ただし、放置してよい傷と、すぐ直すべき傷の見極めが重要です。この記事では、症状別の判断基準、DIY補修の手順、業者に依頼した場合の費用相場を解説します。
FRP船体の構造を知る
補修を理解するには、まず船体の層構造を知る必要があります。
| 層 | 厚さの目安 | 役割 |
|---|---|---|
| ゲルコート(表面) | 0.4〜0.8mm | 防水・美観・紫外線対策。強度は担っていない |
| FRP積層(本体) | 3〜15mm | ガラス繊維と樹脂の層。船体強度そのもの |
| コア材(一部の船) | 10〜25mm | バルサやフォーム。軽量化と剛性のため |
重要なのは、ゲルコートの傷は美観の問題、FRP層まで達した傷は強度の問題という区別です。この違いが、緊急度を決めます。
症状別・緊急度の判断
| 症状 | 深さ | 緊急度 | 対応 |
|---|---|---|---|
| 擦り傷・線傷 | ゲルコートのみ | 低 | コンパウンドで研磨、またはゲルコート補修 |
| クモの巣状のひび(クレイジング) | ゲルコートのみ | 低〜中 | 経過観察。広がるなら原因を調査 |
| 白く浮いたひび | FRP層に到達の疑い | 中 | 削って深さを確認し補修 |
| 船底のブリスター(水ぶくれ) | ゲルコート下 | 中 | 削って乾燥させ、充填・再塗装 |
| 穴・貫通 | FRP層を貫通 | 高 | ただちに補修。航行前に必ず修理 |
| コア材への浸水 | 内部 | 高 | 専門業者へ。放置すると腐食が広がる |
クレイジング(細かいひび)は放置してよい?
ゲルコート表面に走る細かいひびは、経年変化として多くの船に現れます。表面だけなら緊急性は低いものの、次の場合は原因の調査が必要です。
- 特定の一点から放射状に広がっている(衝撃を受けた可能性)
- 年々明らかに増えている
- 金具の周辺に集中している(荷重が集中している可能性)
DIYで直せる範囲・業者に任せる範囲
| 作業 | DIY | コメント |
|---|---|---|
| 浅い擦り傷の研磨 | ◎ | コンパウンドとポリッシャーで対応可 |
| ゲルコートの部分補修 | ○ | 色合わせが難しいが手順は単純 |
| 小さな欠けの充填 | ○ | パテとゲルコートで対応 |
| FRP層の積層補修 | △ | 手順は可能だが強度に関わる。要注意 |
| 貫通穴の補修 | × | 業者推奨。強度と防水が命に関わる |
| コア材の交換 | × | 専門作業 |
| 船底の大規模ブリスター | × | 乾燥に数か月かかることも |
判断の基準はシンプルです。「そこが割れたら沈むか」を考えてください。船底や喫水線下の貫通に関わる部分は、迷わず業者に任せるべきです。
DIY補修に必要な材料
| 材料・道具 | 価格の目安 | 用途 |
|---|---|---|
| ゲルコート(補修用) | 3,000〜8,000円 | 表面の仕上げ。色を選ぶ |
| 硬化剤 | ゲルコートに付属 | 混合比を厳守 |
| FRPパテ | 1,500〜4,000円 | 欠けや凹みの充填 |
| ガラスマット・クロス | 1,000〜4,000円 | 強度が必要な補修に |
| ポリエステル樹脂 | 2,000〜6,000円 | 積層用 |
| サンドペーパー各種 | 1,000〜2,000円 | #120〜#2000まで数種類 |
| コンパウンド | 1,500〜4,000円 | 仕上げの艶出し |
| マスキングテープ・アセトン | 1,000〜2,000円 | 養生と脱脂 |
| 保護具(手袋・マスク・ゴーグル) | 2,000〜5,000円 | 必須。樹脂と粉じんは有害 |
※2026年時点の目安です。一式そろえて1万5,000〜3万円程度が目安になります。
ゲルコート補修の手順
①下地処理
- 補修箇所と周囲をアセトンで脱脂する(油分が残ると密着しません)
- 傷の周囲を#120〜#240のペーパーで軽く削り、なだらかにする
- 欠けている場合は、あえて少し削って断面をV字に広げると材料が食いつきます
②色を合わせる
最も難しい工程です。船体は経年で色あせているため、新品同然の白では浮いて見えます。
- 少量ずつ調色し、目立たない場所で試し塗りして乾燥後の色を確認する
- ゲルコートは乾くとやや濃くなる傾向がある
- 完全一致は難しいため、目立たない位置なら多少の差は許容する
③充填・塗布
- 硬化剤を規定の比率で正確に混ぜる(多すぎると急激に固まり、少なすぎると硬化しません)
- 気温が低いと硬化が遅くなる。気温15〜25度の日が作業に適しています
- 周囲よりわずかに盛り上げて塗る(硬化後に削って平らにするため)
- ゲルコートは空気に触れると硬化しにくいため、表面をフィルムで覆うか専用のワックス入りタイプを使います
④研磨・仕上げ
- 硬化後、#400 → #800 → #1500 → #2000と番手を上げながら水研ぎする
- 周囲との段差がなくなるまで平滑にする
- コンパウンドで磨いて艶を出す
- 最後にワックスをかける
仕上がりを左右するのは研磨の丁寧さです。塗る作業は30分でも、研磨に2時間かけるくらいの配分が適切です。
FRP層まで達した傷の補修
ガラス繊維が見えている場合は、強度の回復が必要です。
- ① 傷んだ部分を完全に削り取る。健全な層が出るまで
- ② 周囲を広くテーパー状に削る(層と層を段階的に重ねるため)
- ③ ガラスマットを樹脂で積層する。小さいものから大きいものへ重ねる
- ④ 気泡を脱泡ローラーで押し出す(気泡が残ると強度が落ちます)
- ⑤ 硬化後に整形し、パテとゲルコートで仕上げる
積層は元の厚みと同等以上を確保するのが原則です。不安があれば業者に任せてください。船体強度に関わる部分でのやり直しは困難です。
業者に依頼した場合の費用
| 作業内容 | 費用の目安 |
|---|---|
| 浅い傷の研磨・磨き | 1万〜3万円 |
| ゲルコートの部分補修(手のひら大) | 2万〜6万円 |
| FRP積層補修(小規模) | 5万〜15万円 |
| 貫通穴の補修 | 10万〜30万円 |
| 船底ブリスターの全面処理 | 30万〜150万円 |
| 船体全面の塗り替え | 50万〜300万円 |
※船のサイズと損傷範囲で大きく変動します。必ず現物を見てもらって見積もりを取ってください。
保険が使える場合がある
係留中の接触事故、他船との衝突、荒天による損傷などは、船体保険の対象になることがあります。修理前に保険会社へ連絡し、損傷状態の写真を撮っておいてください。修理してしまうと状況の証明が難しくなります。
傷を防ぐための日常の工夫
- フェンダーを十分に使う:数を惜しまない。位置も波の高さに合わせて調整する
- 係留ロープに遊びを持たせる:張りすぎは船体への負担になります
- 着岸は低速で:ほとんどの傷は着岸時に生まれます
- ワックスをかける:年1〜2回でゲルコートの劣化を大きく遅らせます
- カバーをかける:紫外線はゲルコートの最大の敵です
よくある質問
Q. 補修跡は目立ちますか?
色合わせと研磨の精度によります。船体色が白なら比較的目立ちにくく、濃色や特殊なカラーは難易度が上がります。売却を考えているなら、目立つ場所は業者に任せるのが無難です。
Q. 冬でも作業できますか?
樹脂の硬化には温度が必要です。気温15度以下では硬化が遅れ、5度以下ではほぼ硬化しません。低温用の硬化剤もありますが、春や秋の作業をおすすめします。
Q. 船底の傷はどうすればいいですか?
上架しなければ作業できません。船底塗装のタイミングに合わせて補修するのが効率的です。喫水線下は浸水リスクに直結するため、深い傷は業者に確認してもらってください。
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FRP補修は材料がそろえば自分でも作業できます。樹脂と粉じんは有害なため、保護具は必ず用意してください。船体色に合わせたゲルコート選びが仕上がりを左右します。
※Amazonのアソシエイトとして、Boat Dreamsは適格販売により収入を得ています。
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まとめ
FRPは、正しい手順を踏めば自分で直せる素材です。
- ゲルコートの傷=美観の問題、FRP層の傷=強度の問題。この区別が判断の軸
- 浅い傷の研磨とゲルコート補修はDIYで十分可能
- 貫通穴・コア材への浸水・船底の大規模ブリスターは業者へ
- 材料一式は1万5,000〜3万円。業者依頼は部分補修で2万〜6万円
- 作業は気温15〜25度の日に。研磨に時間をかけると仕上がりが変わる
- 損傷は修理前に写真を撮る。保険が使える場合がある
まずは目立たない場所の小さな傷で練習してみてください。手順を覚えると、船との付き合い方が変わります。
※本記事の費用は2026年時点の一般的な目安です。材料の使用方法は必ず製品の説明書に従い、換気と保護具の着用を徹底してください。


