船舶用VHF無線の基礎知識|必要な免許・価格・使い方を徹底解説

朝靄の水面で操舵位置に立つボートのオーナー プレジャーボート

「携帯電話があるから無線はいらない」——沿岸だけを走るなら、その判断も一理あります。しかし沖に出るなら話は変わります。

携帯電話は圏外になれば使えません。そして海上では、思ったより早く圏外になります。一方VHF無線は、電波の届く範囲にいるすべての船と海上保安庁に、同時に呼びかけられる手段です。

この記事では、船舶用VHF無線に必要な免許、機器の価格、実際の使い方、そして携帯電話との使い分けを解説します。

VHF無線と携帯電話の違い

項目VHF無線携帯電話
通信範囲見通し距離(数海里〜数十海里)基地局の圏内のみ
沖での使用◎ 圏外の概念がない× 沖では圏外になる
相手周囲の全船・海上保安庁に同時に届く1対1のみ
緊急時付近の船がすぐ駆けつけられる通報先経由になる
免許必要(従事者免許+局免許)不要
費用初期5万〜20万円、以降は電波利用料月額利用料

最大の違いは「同報性」

携帯電話で118番に通報すると、海上保安庁は救助に向かいます。しかしすぐ近くを走っている船には、その情報は届きません。

VHFで遭難通信を出せば、電波の届く範囲にいる全船が状況を知ります。多くの場合、最も早く到着できるのは近くの船です。この差は、緊急時に決定的な意味を持ちます。

必要な免許は2種類

VHF無線を運用するには、「人の免許」と「設備の免許」の両方が必要です。

種類内容
無線従事者免許操作する人の資格。国際VHFなら第二級・第三級海上特殊無線技士など
無線局免許(開局)船に設置する設備の許可。総務省へ申請

第三級海上特殊無線技士

プレジャーボートで国際VHFを使う場合、多くの方が取得するのがこの資格です。

取得方法費用の目安期間
養成課程講習を受講約2万〜4万円1〜2日
国家試験を受験約5,000〜1万円試験日程による

講習を受ければ修了試験で取得できるため、多くの方は講習を選びます。1〜2日で取得できる手軽な資格です。

開局手続き

機器を購入したら、総務省(総合通信局)へ無線局の開設を申請します。販売店が代行してくれることが多いので、購入時に相談してください。開局後は電波利用料(年数百円程度)が発生します。

なお、免許を受けずに無線設備を運用することは電波法違反です。「持っているだけ」でも運用可能な状態は問題になり得ます。必ず正規の手続きを行ってください。

機器の種類と価格

タイプ価格の目安特徴
携帯型(ハンディ)3万〜8万円持ち運べる。出力が小さく通信距離は短め。防水性を確認
固定型(据置き)6万〜20万円出力が大きく通信距離が長い。アンテナ設置が必要
DSC対応機8万〜25万円緊急ボタンで自動的に遭難信号を発信

DSC機能は非常に価値が高い

DSC(デジタル選択呼出)は、ボタン1つで自船の識別情報と位置を含む遭難信号を自動送信する機能です。

パニック状態でも、押すだけで済みます。GPSと接続しておけば緯度経度も自動的に送信されるため、「どこにいるか説明できない」という最悪の事態を避けられます。これから導入するなら、DSC対応機を強くおすすめします。

DSCを使うにはMMSI(海上移動業務識別コード)という船固有の番号が必要です。開局申請時にあわせて手続きします。

チャンネルの使い分け

チャンネル用途
16ch遭難・緊急・呼出し専用。常時待ち受ける
13ch船舶間の航行安全に関する通信
その他の船間通信用呼び出し後、雑談や連絡はこちらへ移る
マリーナ・港湾との連絡用施設ごとに指定がある

16chの使い方の原則

  • 航行中は16chを待ち受けるのが基本
  • 相手を呼び出すのは16ch、応答があったら別のチャンネルへ移る
  • 16chで雑談や長い通信をしない(緊急通信を妨げます)

緊急時の通信手順

緊急度に応じて3つの区分があります。

信号読み方使う場面
MAYDAYメーデー生命に重大かつ急迫した危険(沈没・火災・重傷者)
PAN-PANパンパン緊急事態だが生命の危険は差し迫っていない(航行不能など)
SECURITEセキュリテ航行の安全に関する警報(漂流物の発見など)

遭難通信(MAYDAY)の伝え方

16chで、次の順に落ち着いて伝えます。

  • 「メーデー、メーデー、メーデー」
  • こちらは(自船名を3回)
  • 現在位置(緯度経度、または目標物からの方位と距離)
  • 遭難の状況(浸水している、火災が発生した など)
  • 必要な救助の内容
  • 乗船者数とけが人の有無
  • 船の特徴(船体の色・大きさ)

最も重要なのは現在位置です。GPSプロッターの緯度経度をそのまま読み上げてください。普段から「自分の位置を数値で言える」状態にしておくことが、いざというときに効きます。

他船の遭難通信を聞いたら

  • まず送信を控える:通信を妨げない
  • 内容を記録する(位置・船名・状況)
  • 自分が最も近く、安全に接近できる場合のみ応答する
  • 自船と乗員の安全が確保できない状況では接近しない

日常的な使い方

VHFは緊急時だけのものではありません。日常でも役立ちます。

  • マリーナへの入港連絡:「これから戻ります」と伝えられる
  • 他船との情報交換:海況や漁模様の共有
  • 気象情報の受信:定時に放送される海上の気象情報
  • 大型船との意思疎通:進路を譲る意思を伝えられる

とくに大型船との通信は安全価値が高い使い方です。互いの意図が分かれば、危険な近接を避けられます。

導入すべきかの判断

あなたの乗り方判断
湾内のみ・携帯が常に圏内必須ではない
岸から5km以上離れる導入を検討
沖の釣り・長距離クルージング強く推奨(DSC対応機)
単独で航行することが多い強く推奨
夜間・早朝に航行する推奨

まずはハンディ機という選択

据置き型は工事が必要ですが、防水のハンディ機なら3万円台から導入できます。出力が小さいため通信距離は限られますが、「何もない」状態とは決定的に違います。バッテリーが落ちても使える点も利点です。

運用上の注意

  • 16chで無駄話をしない:緊急通信を妨げます
  • アンテナは高く設置する:VHFは見通し距離。高さが通信範囲を決めます
  • 定期的に動作確認する:使わないまま故障に気づかないケースが多い
  • 電源を入れておく:積んでいても電源が切れていれば意味がありません
  • 同乗者にも使い方を伝える:船長が倒れる可能性もあります

よくある質問

Q. 免許なしで使える無線はありますか?

免許不要の特定小電力トランシーバーなどはありますが、通信距離が非常に短く、海上保安庁とは通信できません。船同士の近距離連絡には使えても、遭難通信の手段にはなりません。

Q. 中古の無線機でも使えますか?

技術基準に適合した機器であれば可能ですが、開局手続きが改めて必要です。また古い機種はDSC非対応のことが多いため、購入前に販売店へ確認してください。

Q. 通信距離はどのくらいですか?

アンテナの高さに依存します。据置き型でアンテナを高く設置すれば数十海里、ハンディ機では数海里程度が目安です。電波は水平線の向こうへは届きません

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まとめ

VHF無線は、沖に出るオーナーにとって携帯電話の代わりにならない装備です。

  • 携帯は圏外になるが、VHFは電波の届く範囲の全船に届く
  • 必要なのは無線従事者免許(第三級海上特殊無線技士など)無線局免許
  • 資格は講習1〜2日・2万〜4万円で取得できる
  • 機器はハンディ3万円台から、据置きDSC対応で8万〜25万円
  • DSCは緊急時にボタン1つで位置情報付きの遭難信号を送れる
  • 16chは常時待ち受け、呼出し後は別チャンネルへ
  • 緊急度に応じてMAYDAY/PAN-PAN/SECURITEを使い分ける

岸から離れて航行する機会があるなら、検討する価値のある装備です。まずはハンディ機からでも、選択肢は大きく広がります。

※本記事は2026年時点の一般的な内容です。免許・開局手続きの詳細は総務省および各総合通信局の公式情報をご確認ください。